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2023年08月23日
トピックス学術・研究学生研究者・企業の方薬学部大学院

薬学部卒業生が筆頭著者の論文が国際学術誌FEBS Lettersに掲載

本学薬学部卒業生の中村(旧姓:松波)梨佐さんが筆頭著者の論文が、欧州生化学連合が発刊する学術速報誌「FEBS Letters」にオンライン掲載されました。本雑誌は、生物科学全般に関するテーマを扱った学術専門誌であり、重要な発見、実験結果や考察を早期に公表することを目的に刊行されているジャーナルです。

塩湖や塩田といった塩濃度が高い環境に生息する高度好塩菌とよばれる細菌は、生存に優位な光環境を求めて移動するために、センサリーロドプシンとよばれるタンパク質を光受容体として利用しています。この光センサータンパク質の内の忌避応答(ある波長の光から逃げる反応)に関与するセンサー(センサリーロドプシンII(SRII)という)において、受容した光情報を細胞内にシグナルとして伝えるためには、タンパク質の一部分の構造を変化させることで、トランスデューサーとよばれる共役タンパク質にその情報を伝える必要があります。この分子機構のカギを握ると考えられてきたのが、トレオニンとチロシンという2つのアミノ酸残基の存在でしたが、中村さんはこれに当てはまらないSRIIがあることを初めて見出しました。この発見は、これまでSRIIからトランスデューサーへとシグナルを伝達するために普遍的に重要だとされてきた分子機構に異論を唱えるものであり、光生物学の分野において非常に重要な発見といえます。また、現在、開発されている薬の多く(開発薬全体の約20%を占める)は、私たちの体の中に存在するGタンパク質共役型受容体(G protein-coupled receptor, GPCR)とよばれるタンパク質群を標的としていますが、今回研究されたSRIIもGPCRとよく似た構造的性質を持っており、また、共役タンパク質を介して細胞内にシグナルを伝える際の構造変化においても両者の間に共通性が見られることが明らかになっています。創薬に重要だとされているGPCRですが、実験上扱いにくいという問題から、分子機構の理解があまり進んでいないという現実があります。一方で、SRIIは光のON/OFFで反応を制御できるため、非常に緻密な実験・解析を行うことができるという利点を持っています。したがって、今回の発見を契機に、今後SRIIが受容した光情報を細胞内へと伝えるために本質的に重要な分子機構が詳細に明らかになれば、GPCRにおけるシグナル伝達機構の解明のヒントを得ることにもつながるかもしれません。

中村さんは、薬学部生だった当時、卒業研究として行った実験の中で本研究のきっかけとなるデータを得ることに成功しました。卒業後は、薬剤師として市内の病院に勤務されていましたが、卒業研究時に自身が発見した興味深い結果に対しての科学的興味が薄れることはなく、数年後に再び本薬学部医療薬学研究科に社会人大学院生として入学され、昼間は薬剤師や本学嘱託職員として働く傍ら、子育てとの両立もしながら夜間や休日を利用して粘り強く研究を継続され、今回の成果につながりました。
 また、中村さんは今回発表した成果の他にも興味深いデータを多数得ており、今後それらの結果についても学術論文にまとめたいと意欲を燃やしています。

薬学部では、今後もリカレント教育を充実させ、科学研究に興味をもった卒業生・社会人の方々の学びをサポートしていきたいと思います。

【論文情報】

  • 掲載誌:FEBS Letters
  • 題名:Key determinants for signaling in the sensory rhodopsin II/transducer complex are different between Halobacterium salinarum and Natronomonas pharaonis.
  • DOI:10.1002/1873-3468.14711
  • 著者:Risa Matsunami-Nakamura1, Jun Tamogami1, Miki Takeguchi1, Junya Ishikawa1, Takashi Kikukawa2, Naoki Kamo1,2, Toshifumi Nara1,*
    1College of Pharmaceutical Sciences, Matsuyama University, Matsuyama, Ehime 790-8578, Japan
    2Faculty of Advanced Life Science, Hokkaido University, Sapporo 060-0810, Japan*Corresponding author

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