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2015年01月01日

自由への渇望が生んだ「越境」の営みから 現代のアメリカ社会が抱える問題に迫る

もう一つの歴史を語る19世紀のアメリカ文学

「文学を研究している」というと、どこか浮世離れした、現実とは遠い世界のイメージを持たれるかもしれませんが、実際はまったく違います。私自身も文学少女であったわけでもなく、大学3年次にボストンに1カ月の短期留学を経験したことで、アメリカ東部独特の風土や歴史に興味を抱くようになったのが、現在の研究テーマである「アメリカの文学・文化」へ取り組むきっかけでした。特に対象としているのは、19世紀前半のアメリカ独自の文学が初めて花開いた頃の作品で、そのなかに人種・階級・男女間の差別の問題がどのように投影されているかということを主に研究しています。

1820年以降のアメリカは、国家の掲げる自由と平等の原則を信じ、無限の可能性に胸を高鳴らせて西へ西へと移動しながら国土を広げ、大きく発展していきましたが、その裏には先住民の虐殺や黒人奴隷制、移民の貧困といった、もう一つの暗い歴史もありました。当時の作家たちは、圧倒的多数派の白人読者の反感を買わぬようにダイレクトな表現は避けながらも、外国や古代などに舞台を移してストーリーを展開するなかで、世の中の動きや歴史、政治に密着した、社会の矛盾や不条理を表現しようとしたのです。しかし、それは決して難しいものではなく、当時の人々にとって大切なエンターテインメントでもありました。大学院で本格的に勉強し始めたばかりで、文学的素養が特別高いわけではない私でも、その文化への関心さえあれば、様々な角度から資料を調べながら、住む場所を追われる先住民や労働力を搾取される黒人奴隷、貧しい移民、抑圧された女性の姿を読み取ることができ
ました。洞察力のある作家の作品には、今まで無視されてきたような当時の風俗や娯楽、人々の生活実態が多く描かれていて、時にそれは歴史の教科書や公文書よりも深く世の中の本質に触れるものであると思います。学生時代に様々な作品を通して国土拡張期のアメリカのバックグラウンドを学んでいくなかで、日本にはないスケールの大きな舞台での人々の営みに、強く引き込まれていきました。

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