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2015年01月01日

自由への渇望が生んだ「越境」の営みから 現代のアメリカ社会が抱える問題に迫る

様々な制約を越えていく自由への渇望を読み解く

ナサニエル・ホーソーンやハーマン・メルヴィル、リディア・マリア・チャイルドといった白人作家たちの作品を通して、アメリカ社会が根本的に抱える問題を考察してきましたが、近年は「越境」というテーマで新たな角度からの研究も進めています。作家の多くは国境を越えて旅をし、ヨーロッパの革命や社会改革運動に刺激を受け、その体験を作品に反映させています。

また19世紀当時、社会的マイノリティである有色人種や女性は、自分たちに課せられた様々な制約を乗り越えて、自由を得ようとしていました。その一つの例として、アメリカ南部の奴隷制度から逃れるために、奴隷制が廃止されていた北部やカナダへと向かった逃亡奴隷があげられます。時には鉄道であったり、徒歩であったり、蒸気船の積み荷に紛れ込んだりとその方法は様々で、国土の四方八方に逃亡ルートが張り巡らされていました。この逃亡網は物理的に地面の下に設置されていたわけではありませんが、非公式の隠されたルートということで「地下鉄道」と呼ばれています。逃亡中は奴隷が、捕鯨船の船員に化けたり、女性が男性に変装したりと、あらゆる「越境」が行われていました。そのような、白人中心の歴史や教科書では語られることのなかった、黒人たちの自由への渇望が生んだ「越境」の営みを文学作品から読み取り、彼らからエネルギーを感じることは、アメリカ文学・文化研究の大きな魅力ではないでしょうか。黒人奴隷は文字を使わない人が多かったので、本人たちが残した資料は限られていますが、女性で唯一、読み書きができたといわれるハリエット・ジェイコブズの手記は、貴重な研究対象となっています。 現代では「バウンダリー(境界線)がなくなった」といわれながらも、実は今まで以上に様々な制約が生まれていて、異文化同士の衝突が激しくなっているように思います。その壁をどう乗り越えていくかというのは永遠のテーマであり、そのヒントやルーツが当時の様々な「越境」を読み解くことで見えてくるかもしれません。

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