FOREFRONT
マツダイ最前線
2023年09月07日
限られた史料から三貨流通動向を検証し、近世庶民の経済的発展の実態を明らかにする
三貨の動向から経済発展を探る
私の研究目的は、近世日本の貨幣動向から経済がどのように発展していったかを探ることにあります。徳川家康の天下統一後、幕府は金・銀・銭からなる「三貨制度」を確立しました。そこから経済発展に貨幣がどのように寄与していったのか、旧幕府貨幣改鋳ごとの金銀在高記録、全国各地の商家・農家の経営帳簿や金融証文といった、貨幣流通や米価変動に関する既存データを分析し、歴史像を検証していくというものです。その際、〝小額貨幣使用比率増=貨幣経済化〞という仮説を立てて、実態解明を進めてきました。
しかし、利用可能なデータは極めて乏しく、関連する断片的な残存資料を突き合わせながらの研究であり、自ら手掛かりとなる資料を探して全国を回ることもありました。その結果、貨幣改鋳は幕府の財政的要因を重視して行われていたとされていたのが、経済発展に伴う貨幣需要に即応した貨幣供給の側面がより重視されるべきであること、人口動向分析からも近世後期は都市より地方で経済が発展したことなどが明らかになってきました。さらに近世日本の貨幣経済化が東アジアのなかでどこまで進んだか、中国や李氏朝鮮との比較分析も行い、18世紀末までには両国に追いつき、相応の発展をしていたことが確認できました。