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図書館

第19回松山大学図書館書評賞

受賞者<2019年12月2日発表>

最優秀書評賞:該当者なし

該当者なし

優秀書評賞:脇坂 はづきさん(人文学部社会学科1年次生)

夜と霧 新訳 〔請求記号:946||F3 ||1(2)〕

著者:ヴィクトール・E・フランクル 出版社:みすず書房 出版年:2002

『人間は何事にも慣れる存在だ』

この言葉は本書にも登場するドストエフスキーの言葉だ。第二次世界大戦下のドイツでは、ナチス・ドイツによりユダヤ人の強制収容が行われた。「ユダヤ人」というだけで収容され、虐殺されたのだ。

本書は強制収容所での生活を体験したヴィクトール・E・フランクルが、心理学者の立場から経験を解明しようと試み、記したものである。収容所で起こった残酷な出来事を淡々と綴っている。ただ、一度は聞いたことがあるアウシュヴィッツ強制収容所の話ではなく、支所である小規模な強制収容所の話であることを心に留めておいて欲しい。誰もがよく知るアンネ・フランクなど世界的に有名な人々はそこにはいないのだ。そこに居たのは名前も残らなかった大衆だ。

強制収容所では毎日のように大衆の「小さな」犠牲、「小さな」死と向き合わなければならなかった。収容所では人間の尊厳など顧みられず、番号によって家畜のように管理されていた。筆者が記しているように毎日生き延びるための戦いが行われ、相手を蹴落としても生き残りたいと願う極限状態にある人間の心理が、専門用語を交えながら生々しく描かれている。

本書を読めば、今まで私たちが抱いていた収容所のイメージを覆すことになるだろう。収容者たちは死と隣り合わせの状況下で、喜びを感じ、好奇心に満ちていたという。夕日が沈む一瞬、移送される時に見た風景。私たちの生活の中にある何気ない自然の美しさに感動し、芸術に喜びを感じていた。驚くべきことに、収容所には「ユーモア」があったと述べているのだ。大量虐殺が行われた収容所で、懸命に僅かな希望を、拠り所を見つけ、生きようとした人間の姿に思いを馳せることができるだろう。

強制労働や暴力を受けている彼らは傍観と受身の気分に支配されていた。自分でなければ関係ない、そういった感情に支配されていた。取り巻く状況は違うが、現代に生きる私たちを支配するものと似通ったものを感じざるを得ない。本書は人間とは何か、苦しむことの本質を探っている。望めば手に入る豊かな時代、形を変えたホロコーストが起きる可能性に満ちた現代に生きる私たちにこそ、本書の言葉は鋭く刺さるのではないだろうか。

 

審査員による講評

審査委員  経営学部講師 古井 健太郎

ホロコーストや強制収容所に関する書物といえば残虐で陰鬱な印象や「負の歴史」としてのイメージを強く持つものですが、評者は本書を収容所に関する我々のイメージを覆す書物だとして、その魅力をうまく表現しています。収容所の人々の心の動きや生き様や「人間」「苦しみ」の本質、そして現代社会を生きる我々に対しての示唆など、単に歴史的な事実を記述するだけにとどまらない本書の魅力を的確にとらえ、読者を引き込む内容となっています。書物のあらすじ、魅力、評者の考察など、書評に必要な要素がバランスよく記述されており、文章としても優れた書評であるといえます。

優秀書評賞:武智 亜美さん(人文学部社会学科1年次生)

見えない性的指向 アセクシュアルのすべてー誰にも性的魅力を感じない私たちについて 〔請求記号:367.9||De〕

著者:ジュリー・ソンドラ・デッカー 出版社:明石書店 出版年:2019

物事は知らないより知っていた方が良い。成人を前にしてよく思うことだ。一見すると自分には関係ないような知識でも、いつどこで誰の役に立つかわからない。だから、今回は私が少し前まで知らなかったことを紹介しようと思う。

アセクシュアル、という言葉を聞いたことがあるだろうか。無性愛とか、エイセクシュアル、略してAセクと呼ばれることもある。本著によるとこれは性的指向のひとつで、誰にも性的に惹かれないこと、または性行為や性的魅力をあまり重要視しないことを指す。現在人口の1%に当てはまると言われているそうだ。近年、LGBTQという言葉が日本でもだいぶ定着してきたが、いわばその一種である。いや、私はヘテロセクシュアル、つまり異性愛がデフォルトであるような考え方が嫌いなのであまり適切な表現と思えないけれど、この場はこれで勘弁してほしい。

私がアセクシュアリティという性的指向を知ったのは好きな人がアセクシュアルだったからだが、認知度はセクシュアルマイノリティの中でもとても低い。定義を聞いて、実は自分もそうなのかもと気づく人もいるだろう。また一口にアセクシュアルと言っても、性行為自体に興味はある人、全くない人、性的魅力を伴わない恋愛感情を抱く人、全く抱かない人、実に多種多様である。私も本著を読んでいる時、頭が混乱した。しかし考えてみればそれは当然のことで、食べ物の好みが全く同じ人がいないように、他者の愛し方も人それぞれであるはずなのだ。ヘテロセクシュアルと呼ばれる人も、愛の在り方までみな同じであるわけではない。便宜上同じ名前がついているだけなのだと、カタカナの羅列を追いながら思った。しかし名前がついていることが重要だということもある。自分だけが人と違うのかもしれないと思うことは、とても不安だからだ。自分一人では生きていけないこの世界で、誰しも他者に対し何らかの感情を抱きながら生きている。その中でも愛情、特に恋愛や性愛は話題に上がりやすく、人生にも大きく関わる。だからこそ少なくとも自分は自分のことを理解したいと思うし、自分のセクシュアリティを示すラベルがあると、なんとなく良い気がする。

本著で著者が再三嘆いている課題がある。アセクシュアリティが正しく理解されないことだ。性的魅力を感じない、性行為を望まない性的指向を認めてもらえない。大人になればわかるとか、セラピーが必要だとか、ぴったりの人に出会えていないだけだとか、愛には性が伴うと思い込む人たちの何気ない言葉に彼らは深く傷つけられている。また自身がアセクシュアルであっても、自分の状態が異常なのではと考えてしまう人もいると思う。でもどうやって理解すればよいのだろう?そのような人たちのために本著は存在する。

セクシュアリティに関することは重要かつ繊細な問題ではあるけれど、変に身構える必要はない。気軽に読んで良い本だと、私は思う。

 

審査員による講評

審査委員  法学部准教授 甲斐 朋香

昨今になってようやくスポットが当てられるようになったテーマ。現代を生きる若者の一人である筆者が、このテーマについて真摯に取り組んだことがわかるような書評でした。抑制の効いた筆致によって、却って筆者の言いたいことがまっすぐに伝わります。

佳作:今村 麻衣さん(人文学部社会学科1年次生)

消滅世界 〔請求記号:913.6||Mu〕

著者:村田沙耶香 出版社:河出書房新社 出版年:2015

世界はこの瞬間も変化し続けている。あの人も、私も、「途中」なのだ。「途中」の場所が違うだけで。これは本書の中で私に衝撃を与えた一節だ。「正しい」世界とはどのようなものなのか。「消滅世界」は私たちが思っている「当たり前」をまっすぐに斬る作品だ。女性も男性も子供を産み、生まれた子供は「子供ちゃん」として社会全体で愛情を注ぐ。受精は全てデータで管理され、夫婦で子供を作ることは近親相姦とされる。家族と恋人は別のものとして捉えられ、複数の恋人がいることが自然な世界。そこにはもう、家族の存在意義はない。この世界では、すべての人が「おかあさん」となり、「子供ちゃん」を可愛がる。生まれた「子供ちゃん」は全ての人の子供。子供はセンターに預けられ、たっぷり愛情を浴びて、優秀な子に育てられる。笑うときも泣くときも、全員同じ筋肉の動かし方をする。その光景は、まるで人間を栽培している農園のようである。

男性は人工子宮の袋を付けた妊夫になり、男性も女性も子供を産む。性的マイノリティの人が注目されている現代において、男性も出産する設定の本書はとても画期的だ。本書の中で、登場人物たちは異性と暮らすより同性の友人と暮らした方が楽だと口にする。これまでの「男と女で結婚し、子供を産み、一緒に暮らす」という、「常識」とされていたものは全く通用しない。男女関係なく子供を産むことができれば、異性と結婚する必要はない。男性同士、女性同士で子供を育てることが可能になる。現在、日本では、大部分の人が異性と恋愛をする。同性愛を偏見の目で見る傾向は、完全には消えていないだろう。では、なぜ異性と恋愛をするのが当たり前なのか。この問いにすぐに答えられる人は少ないのではないか。本書は、私たちが当たり前だと考えていることを疑問視させる点において、非常に優れている。本書の中に、原始時代は、人間は多夫多妻制の乱婚制度が当たり前だったとある。現代は一夫一婦制だ。本書の世界では、「楽園(エデン)システム」が導入され、家族制度は崩壊している。このシステムの下では、寂しいと感じることもない。性的暴力が発生する確率も限りなく低いだろう。しかし野菜であるかのように子供を「栽培」していくことは正しいといえるのか。正しい家族の形とは一体何なのか。本書から、私たちが思う常識がいかに不明瞭なものかを教えられる。

 同性婚のように、多様な家族の形が認められている現代、「楽園システム」に似た制度が導入される未来が来るかもしれない。人間はどんどん進化して、魂の形も本能の形も変わる。雨音が感じているように、私が信じている「正しい」世界も、この世界へのグラデーションの途中なのだろう。変化していく世界の中で、私は今日も正しさを求めながら生きる。自分が正しいと考える本能に従って。

 

審査員による講評

審査委員  経営学部講師 古井 健太郎

本書は現代の日本社会を生きる我々からすると非常に異様に感じられるような、とても「正しい」「当たり前」だとは考えられないような世界が舞台となっています。評者は本書の内容を受けて、常日頃から「正しい」「当たり前」だと感じていること自体がいかに曖昧で不明瞭であるかをとらえ、世界が常に変化し続けていることがその背景にあることを上手く表現しています。本書の異様な設定の説明から評者の考察への展開は読者をひきつけ、特に評者の未来に対する考察は、思わず考えさせられるような内容となっています。本書の魅力や見どころをさらに鮮やかに描出することができれば、より完成度の高い書評となっていたことでしょう。

佳作:公文 郁歩さん(人文学部社会学科1年次生)

貧困世代:社会の監獄に閉じ込められた若者たち 〔請求記号:081||K 5||2358〕

著者:藤田孝典 出版社:講談社 出版年:2016

日本の貧困問題は年々深刻化している。事実、先進国のなかでも日本は貧困率の高い国のひとつとして知られている。

そして今、日本の貧困の中心となっているのが、これからの社会を背負っていかなければならない若者たちであると、本書の著者は述べている。また、そんな若者たちを「貧困世代」と総称し、その実態の深刻さを理解し、具体的な政策を打ち出すことが必要だと主張している。

本書ではまず、貧困世代を「稼働年齢層を中心に形成される世代であり、貧困であることを一生宿命づけられた人々」と定義している。つまり、著者に言わせると、現代の若者たちは、何らかの政策や支援の再編がない限り、一生貧困から抜け出すことが難しいというのである。日本の貧困はそんなにも深刻なのだろうか。

本書では、栄養失調で生活に困窮する若者たちや、奨学金の返済が追い付かず、ブラックバイトを続けるしかない女性、所持金13円で野宿していた男性など、様々な若者の実体験を例に、貧困世代の厳しい状況を物語っている。もちろん全ての若者がこのような生活を強いられているわけではないが、一部にこのような若者がいることは事実である。また、これから貧困が益々進んでいくことは確かである。

これに対し著者は、「若者たちに対する社会一般的な眼差しが、高度経済成長期のまま、まるで変っていないのではないだろうか」と投げかけている。高度経済成長期の日本は、雇用が安定し、普通に働けば普通に暮らせる社会であったが、雇用環境が激変している今は、生涯平社員でいることも難しい。長時間労働や過労死といったケースも少なくない。そうして離職せざるを得ない若者たちは、努力しない社員として社会からは扱われる。若者に対する見方を、いつまでも雇用が安定していた時代と同じように考えていて良いのだろうか。事実、「若い時に努力しておけば後で楽になる」、「若いんだから何とかなる」という昔であれば通用していた労働万能説は、今では通用しない。また、社会福祉においても、高齢者、障害者、児童などが対応の中心で、非正規雇用やブラック企業の被害者の対応にまで手が回らない状況であると著者は指摘している。

 日本の貧困問題は大きな社会問題であり、これから益々若者の貧困が進むと、少子化はひどくなる一方だろう。若者の貧困への理解を深め、高齢者や児童と同等の政策や支援を行うべきなのではないか。日本の貧困はもはや無視できないところまで来ている。日本のこれからの未来について、真剣に考えさせられる一冊である。

 

審査員による講評

審査委員  経済学部講師 小田巻 友子

評者の言葉と書籍からの引用との区別が明確であり、書籍の内容が明快に示されるオーソドックスな書評としてまとまっていた。現代の若者に向けられる世間の眼差しと、個人の努力ではどうしようもない不平等と経済状況、貧困をもたらす構造的要因の乖離について説明することができている。欲を言うならば、もう一歩踏み込んだ評者独自の考察が欲しかった。この書籍との出会いが評者の問題意識と合わさって、大学生活でのさらなる学びにつながることを期待したい。

 

審査員による全体講評

審査委員長 法学部准教授 甲斐 朋香

応募数は昨年度に比べても少なめ、作品もやや小粒のものが目立ちました。チャレンジをしてくださった学生の皆さんには、受賞の有無を問わず、健闘をたたえたいと思います。

書評を書くという作業は、本を選ぶ段階からも始まっています。ちょっと歯応えのあるような本にも是非、手を伸ばしてみてください。そしてもしもその一冊から何かしらの感銘を覚えたら、「感動の成分表」を少し客観的・俯瞰的に分析するという視点を持ってみてください。来年度も新たな挑戦者が生まれますように!

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